さいたま市浦和の会計事務所、中小企業の経営パートナー「税理士法人新日本経営」です。
「また最低賃金が上がるのか・・・」
事業を営む中小企業の経営者にとって、最低賃金の引き上げは決して他人事ではありません。
令和8年度の地域別最低賃金について、全国47都道府県の改定額が出そろいました。
埼玉県では令和8年10月1日から最低賃金が現在の1,141円から1,196円へ55円引き上げられます。
全国加重平均は1,177円となり、引上げ額は56円と目安制度が始まった昭和53年度以降で2番目の大きさとなりました。
最低賃金の引き上げというと「パートやアルバイトの時給を55円上げればよい」と考えてしまいがちです。しかし、実際にはそれだけではありません。
従業員の給与水準全体を見直す必要が生じたり、会社が負担する社会保険料等にも影響したりするため、人件費全体を考えるきっかけになります。
さらに、賃上げをおこなった企業には一定の要件を満たすことで税負担を軽減できる「賃上げ促進税制」という制度もあります。
今回は、埼玉県の最低賃金の改定内容を確認したうえで、最低賃金の引き上げが会社の人件費にどのような影響を与えるのか、そして賃上げ促進税制をどのように考えればよいのかについて解説します。

埼玉県の最低賃金は1,196円に
令和8年度の最低賃金について、各都道府県の地方最低賃金審議会による答申が出そろい、埼玉県の地域別最低賃金の時間額1,196円となりました。
発行日は令和8年10月1日です。それまでは現在の1,141円が適用されます。
今回の引き上げ額は55円。率にすると約4.8%の引き上げです。
全国的に見ても大幅な引き上げとなっており、令和8年度は47都道府県すべてで54円から65円の引き上げが答申されています。
全国加重平均は1,177円で、昨年度の1,121円から56円上昇しました。
最低賃金は、原則として都道府県内の事業場で働くすべての労働者に適用されます。
そのため、正社員だけでなくパートやアルバイトなどの時給についても確認が必要です。
なお、特定の産業については地域別最低賃金より高い「特定最低賃金」が定められている場合があります。
埼玉県内でも特定の製造業などについて特定最低賃金が設定されているため、自社の業種に該当する場合は、地域別最低賃金だけで判断しないよう注意が必要です。
最低賃金が55円あがると人件費はどのくらい変わる?
では、今回の引き上げによって会社の負担はどの程度変わるのでしょうか。
例えば、時給1,141円で働く従業員が1日8時間、月20日勤務しているとします。
最低賃金の引き上げに合わせて時給55円を上げると、1人当たりの月間給与の増加額は
55円 × 8時間 × 20日 = 8,800円 となります。
1年間では105,600円の増加です。
これが10人いれば年間約106万円、20人なら年間約211万円となります。
もちろん、実際の勤務日数や労働時間によって金額は変わります。また、会社が負担する社会保険料などもあるため、最低賃金の引き上げによる会社の負担増は給与の増加額で判断することはできません。
ここで大切なのは、最低賃金の引き上げを「対象となる従業員の時給を上げるだけの問題」と考えないことです。
新入社員だけ上げれば大丈夫?「賃金のバランス」も注意
最低賃金への対応で見落としやすいのが、既存従業員との給与バランスです。
例えばこれまで新人の時給が1,141円、勤続年数の長い従業員が1,200円だったとします。
最低賃金が1,196円になると、新人の時給を最低賃金に合わせただけで、両者の差はわずか4円になってしまいます。
もちろん最低賃金を下回らなければ法律上の問題はありません。
しかし、長く勤務している従業員からすると、「新人とほとんど給与が変わらない」という状況はモチベーションや人材定着に影響する可能性があります。
そのため、最低賃金の改定をきっかけとして、単純に最低ラインだけを引き上げるのではなく、自社の給与体系そのものを確認してみることも重要です。
正社員の初任給やパートの時給、勤続年数に応じた昇給額などを一度並べてみると、これまで気づかなかった給与体系上の課題が見えてくることがあります。
最低賃金の引き上げは、会社にとって負担が増えるだけの話ではありません。
「自社では人材にどのように給与を配分していくのか」を考える機会として捉えることもできます。

賃上げした会社が利用できる「賃上げ促進税制」
人件費の増加を考えるうえで、もう一つ確認しておきたいのが「賃上げ促進税瀬」です。
賃上げ促進税制とは、企業が従業員の給与等を一定以上増加させた場合に、その増加額の一部を法人性などから税額控除できる制度です。
中小企業向けの制度では、一定の要件を満たして雇用者給与等支給額を前事業年度より1.5%以上増加させた場合、控除対象となる給与等支給増加額の15%を税額控除できます。
さらに、給与等支給額の増加率が2.5%以上の場合には税額控除率が30%になります。
教育訓練費や子育てとの両立支援、女性活躍支援に関する一定の要件を満たすことで、控除率がさらに上乗せされる仕組みもあります。
ただし、ここで注意したいのは「最低賃金が上がったから、そのまま賃上げ促進税制が使える」というわけではないということです。
賃上げ促進税制には給与等支給額の増加率などについて一定の要件が設けられています。
最低賃金への対応によって給与が増加した場合であっても、自社の給与等支給額全体の状況によっては制度の要件を満たさない可能性があります。
そのため、最低賃金への対応を検討する際には「いくら人件費が増えるのか」だけでなく「賃上げ促進税制の対象となる可能性があるのか」まで含めて確認すると良いでしょう。
税額控除だけで賃上げ負担を吸収できるわけではない
賃上げ促進税制は賃上げをおこなう企業にとって有効な制度ですが、税額控除があるからといって、人件費の増加がそのまま解消されるわけではありません。
例えば、100万円の給与増加があったとして、その15%が税額控除の対象になったとしても、単純に考えて税額控除額は15万円です。
また、税額控除には法人税額等に対する上限があるため、計算上の控除額をすべてその年度の税額から差し引けるとは限りません。
中小企業向けの制度では、控除しきれなかった金額について一定期間の繰り越しが認められる仕組みもあります。
したがって「税制優遇があるから、とにかく給与を上げよう」と考えるのではなく、今後の売上や利益、人件費のバランスを見ながら、継続できる賃上げを考えることが大切です。
最低賃金の引き上げを「経営の見直し」のきっかけに
最低賃金は今後も引上げが続く可能性があります。
政府は最低賃金について、全国平均1,500円という水準を目指す方針を示しています。今回の引き上げだけを乗り切れば良いということではなく、今後も人件費が上昇していくことを前提として、事業計画を考える必要があります。
人件費が増加するのであれば、その分をどのように吸収するのか。
価格への転嫁によって対応するのか、業務効率化によって生産性を高めるのか、それとも商品やサービスの構成を見直すのか。
こうした判断は会社によって正解が異なります。
特に中小企業では、従業員がそれほど多くないからこそ、一人あたりの人件費の変化が利益に与える影響は小さくありません。
最低賃金の改定を単なる「給与計算上の変更」として処理するのではなく、自社の利益構造や給与体系、価格設定を見直すタイミングとして活用することがこれからの経営では重要になるでしょう。
まとめ
令和8年度の最低賃金改定により、埼玉県の最低賃金は令和8年10月1日から1,196円となります。
現在の1,141円から55円の引き上げとなり、パートやアルバイトだけでなく、会社全体の給与水準を見直すきっかけとなる可能性があります。
最低賃金への対応では、対象となる従業員の給与を引き上げるだけでなく、既存従業員との給与バランスや会社全体の人件費についても確認しておくことが大切です。
また、一定の要件を満たして賃上げをおこなった企業には、賃上げ促進税制による税額控除を受けられるっ可能性があります。ただし、最低賃金の引き上げと賃上げ促進税制の適用要件は別のものですので、自社が制度の対象となるかどうか事前に確認しておきましょう。
最低賃金の引上げは企業にとって負担が増えるニュースでもあります。
しかし、その一方で自社の給与体系や価格設定、業務効率、利益構造を見直すきっかけにもなります。
今後も人件費の上昇が見込まれる中、目先の対応だけではなく将来を見据えた経営計画を考えていくことが重要です。
※本記事は、掲載日時点の法令・通達等に基づいて作成しています。今後の法令改正や制度の運用変更等により、内容が変更となる場合があります。情報収集等をして記事は作成しておりますが、万が一記事内容に誤りがあり読者に損害が生じた場合でも当法人は一切責任を負いません。また、記事内容に関するご質問にはお答えできませんので予めご了承下さい。
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